定期報告の罰則とは?
100万円以下の罰金
特定建築物の調査報告、建築設備・防火設備の検査報告において、気になるのが罰則についてです。「報告しなくてもたぶん大丈夫だろう」「悪いことは表に出したくないので全部OKにして報告しても大丈夫だろう」など、このようなケースが見受けられます。
許認可を出す場合と違い「報告」ですから、役所側は報告されれば書式の不備等の訂正はありますが、基本的には内容を信じて受理するしかありません。受理した後、疑義が生じればもちろん問い合わせや、立入検査があるかもしれませんが、物件数が多いとすべて精査するのは非常に困難です。
その為、定期報告制度では罰則規定が設けられていますので、内容を見てみましょう。
次の各号のいずれかに該当する者は、100万円以下の罰金に処する。
一(略)
ニ 第12条第1項若しくは第3項(これらの規定を第88条第1項又は第3項において準用する場合を含む。)(中略)の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
(以下略)
第12条の第1項と第3項は、定期報告が規定されている箇所ですので、簡単にまとめますと、建築物の定期調査報告や建築設備の定期検査報告において「報告しなかったり、虚偽報告をした者に対して100万円以下の罰金に処します」ということになります。ここでの「報告をした者」が誰を指すかというと建物の「所有者又は管理者」です。
ただし、現時点で定期報告行政において、この規定により処罰されたとは聞いたことはありません。(※少なくとも、福岡県で行われた平成24年定期報告制度説明会の質疑応答で、この時点での罰則の適用はないと回答しています。)
ここ10年で定期報告制度も、報告率が大きく上昇しました(※平成26年度で約72%)。各地での建物事故を受けた大きな改正を何度か実施し、国土交通省もこの制度の徹底を図ることで、未然に事故を防ぎたい考えです。平成28年6月施行の法改正で新たに防火設備の定期検査が義務付けられたこともあり、まずは報告率をできるだけ100%に近づけること、そして既存建物の現状把握とその改善指導に行政は力を注いでいます。
各特定行政庁では、実際の担当者が極めて少ないことから、未報告建築物の立入検査や違反建築物に対する指導もまだまだ不十分です。どうしても事故後の対応になってしまっています。
平成23年4月から「建築行政共有データベース」という建築行政におけるIT活用を実践するシステムが稼働しています。その目的の中に「既存建築物の違反や危険な状態の解消、既存不適格建築物の安全性向上」を謳っているので、今後はより効率的に問題となる建築物を把握できるようになるかもしれません。
そうなれば、一定の処分対象となる基準を設け、この罰則規定の適用事例が出てくることは否定できません。
民法、刑法による罰則の方が重い
建築行政において近年、大きな問題となった火災事故に平成24年5月の広島県福山市ホテル火災事故があります。
宿泊客7人が死亡し、従業員1人を含む4人が重傷を負うという建物事故で、運営会社の社長は業務上過失致死傷罪に問われました。平成27年1月25日に広島地裁は、禁錮3年、執行猶予5年(求刑:禁錮3年)の有罪判決を言い渡しています。
遺族らと示談が成立していたこともあり、執行猶予がついたと思われますが、建物自体は違法な増改築を繰り返しており、防火設備も不十分で、防火管理上の重要な注意義務違反があったと裁判では指摘されています。
また民法の不法行為による損害賠償や、工作物等の所有者責任による損害賠償に問われる可能性もあり、万が一事故が起きれば建築基準法の罰金程度では済まされません。
建物を維持管理していく上で、建築基準法や消防法、その他法令の法定点検の経費はそれなりにかかってしまいますが、大きな事故が起きてからでは意味がありません。所有者・管理者の責任として、建築基準法、消防法の違反を放置しないように定期報告、消防点検などを積極的に活用していただいきたいと思います。
資格者に対する罰則はどうなっている?
ここまで建物の所有者・管理者側の罰則や責任問題を見てきましたが、調査・検査する側にも罰則はあります。
定期報告業務を行える資格者は、一級・二級建築士と専門の講習修了資格です。
■一級・二級建築士の場合
建築士は、定期報告業務を報酬を得て行う場合、都道府県への建築士事務所登録が必要となり、建築士法の罰則規定の適用を受けます。建築士法違反の懲戒事由はたくさんあり、その違反行為に応じて、文書注意、戒告、業務停止、免許停止の処分があります。
定期報告業務において、建築士が処分されたというケースは聞きませんが、いい加減な調査・検査や虚偽報告をしていると、処分されることも十分に考えられます。
■講習修了資格者の場合
平成28年6月施行の法改正までは、この資格者に対する罰則がありませんでした。いい加減な調査・検査、虚偽の報告を行っても法的に罰することができなかったのです。事実、適切に調査・検査されたか疑わしい報告書がたくさんあったため、このことが問題視され、今回の法改正で罰則規定が設けられました。
また、資格の名称も新しく変わり、国が資格者を監督する形で国土交通省への登録制となりました。定期報告の種類に応じて、特定建築物調査員、建築設備検査員、防火設備検査員、昇降機等検査員となります。
これに伴い、建築基準法に欠格事由や違反内容が明記され、違反行為があれば資格者証の返納を命じられるようになりました。(さらにこの返納命令に応じなかった場合には30万円以下の過料。)返納を命じる項目の一つに「調査等に関して不誠実な行為をしたとき」とあり、どういった場合に、どの程度の悪質さで処分されるのかは、現時点で事例がないのでわかりませんが、今後注目したいところです。
建物利用者の安全の為にも、所有者・管理者と建築士等の資格者が協力して、誠実な調査・検査報告を心がけていかなければなりません。