建築基準法第12条で定められています「定期報告制度」には、主に3種類の報告内容があります。
2.建築設備
3.防火設備(平成28年6月施行の法改正で新設)
本記事は、3.の「防火設備」について内容をご紹介いたします。
防火設備の定期検査とは
これまで防火設備の点検は、特定(特殊)建築物の定期調査で行っていましたが、平成25年10月に発生した福岡市診療所での火災死亡事故を受けて、新たに「防火設備」の定期検査が新設されました。この事故では、防火設備が未設置であったり、防火扉が適切に機能しなかったために被害が拡大したとされ、防火設備の維持管理を強化する目的で、建築基準法の定期報告制度に新たに追加されることとなりました。
防火扉や防火シャッターといった防火設備の点検は、建築基準法と消防法の間で曖昧なままでした。防火設備自体の設置については建築基準法で定められていますが、熱感知器・煙感知器との連動制御部分は消防法の領域になります。その為、防火扉や防火シャッターの作動チェックが実際に各建物でどの程度実施されているかはよくわからない状況でした。
いざ火災事故が発生したときには、被害の拡大を防ぐために、非常に重要な設備となりますのでチェック体制を明確にしたということです。
またこの火災事故を受けた法改正で、福祉施設や診療所といった高齢者や入院患者等の避難困難者が使用する建物においては、全国的に規模の小さい建物であっても点検をしなければならないこととなり、国が政令で一律に対象となる建物の用途や規模を定めました。これまで定期報告の対象となっていなかったような小規模の診療所や福祉施設でも、今後定期報告を実施しなければなりません。
詳しくはこちらをご参照下さい。→「法改正(平成28年6月)」
定期検査の対象となる防火設備は4種類です。
2.防火シャッター
3.耐火クロススクリーン
4.ドレンチャー
以下にそれぞれの内容についてご紹介いたします。
防火扉
最も多いのがこの防火扉です。階段によく設置されているのでイメージしやすいと思います。この防火設備検査で対象となる防火扉は「随時閉鎖式」のものになります。これに対して「常時閉鎖式」の防火扉は機構が単純な為、特定建築物の定期調査の際に点検します。
消防点検で行なうように熱感知器や煙感知器を実際に作動させ、連動を確認し、扉が閉まりきるかをチェックします。またこの時に扉の「運動エネルギー」と「閉鎖力」の測定も行います。これは避難時に勢い良く扉が閉まってくると挟まれて怪我をする恐れがあることから、一定の基準以下になるようにしなければならないことになっています。
随時閉鎖式
常時閉鎖式
防火シャッター
防火シャッターは、比較的大きな開口を閉鎖しなければならない場合に設置されます。病院やスーパー、ショッピングモールなどの複合施設のエスカレーターや吹き抜け周りによく設置されています。防火扉と違い、営業している建物であれば「常時閉鎖式」の防火シャッターというのは基本的にありませんので、感知器連動もしくは非常ボタンで閉鎖するタイプになります。
防火扉と同じように感知器を作動させ、連動を確認し、シャッターが閉まりきるか確認します。シャッターには、シャッターを巻上げているシャッターボックスが上部や天井裏にありますので、内部の劣化損傷なども確認します。また防火シャッターには、降下時に挟まれて怪我をすることを防止するため「危害防止装置」が設置されているものがあります。(※平成17年12月以降の防火シャッターに装着が義務化されました。)この危害防止装置がきちんと働くかも確認しなければなりません。具体的には、シャッターの底部(座板)に接触したら降下が5cm以内で一旦停止し、再降下しなければなりません。
防火シャッターも防火扉と同じく、完全に閉鎖して火炎や煙を遮断する防火区画が形成されなければ意味がありませんので、シャッターの下に棚や観葉植物などの物品を置かないようにお願いします。
耐火クロススクリーン
耐火クロススクリーンは、一般の方にはなかなか聞き慣れないものかと思います。防火シャッターと同じように天井からスクリーンが降下してきて防火区画を形成します。小さなものはエレベータの前に、また比較的大きなものは病院や倉庫などに設置されています。
耐火クロススクリーンは、ガラスクロス製でできており炎と煙を遮断します。特徴としましては、防火シャッターに比べてとても軽量で、柔らかい素材でできているため接触しても安全です。避難する際は持ち上げるか、切れ目をめくり上げる形で通ることができます。
検査内容は防火シャッターと同様に、感知器と連動しきちんと閉鎖するか、また各部に損傷がないかなどを確認していきます。耐火クロススクリーンには、「巻取り式」と「バランス式」があります。巻取り式耐火クロススクリーンには、危害防止装置がついていますので、接触時に停止し、障害物がなくなれば再降下するかをみます。エレベーターの前など比較的小さな開口部に使用するバランス式耐火クロススクリーンには、危害防止装置の設置はありません。
ドレンチャー
ドレンチャーもなかなか一般の方には馴染みのないものです。設置されている建物が限られてくるため意識していないと見ることはあまりないでしょう。火災時に作動すると、天井の散水ヘッドから水が噴射し「水幕」を形成することで火煙の広がりを遮断します。駅、空港その他大規模施設など、シャッターなどでは閉鎖できない大きな空間がある建物で設置されています。似たような設備に消防のスプリンクラーがありますが、こちらは火災時の初期消火を目的とするもので、ドレンチャーとは機能が異なります。
実際に作動させる事ができれば一番良いですが、相当量の水量が散水されるので、実際に災害時と同じ状況を想定しての検査をすることはできません。また、定期検査報告の対象となるドレンチャーは、あくまで防火区画を形成する防火設備として認定されたものとなりますので、全国でも数えられるほどの施設でしか設置されていないようです。文化財建築物などに設置されている延焼防止用のものなどとは別になりますでご注意下さい。
対象となるドレンチャー設備が設置されている施設は、大規模かつ特殊な建築物であると思われますので、設備内容も複雑かつ大掛かりなものと予測します。定期検査を実施する検査者は、おそらく設計・施工会社(ゼネコン)やメーカー技術者、専門のメンテナンス業者等が対応する形になるでしょう。
報告時期
建築設備の定期検査と同じく「おおむね6月から1年まで」の報告が必要となっているため、毎年の報告が必要です。また、建築設備では設置箇所が多数ある場合には、3年間で全数検査が完了できればよかったのですが、防火設備の検査は「毎年、全数検査」になります。対象となる防火設備が設置されている場合、すべての防火設備について作動させなければなりません。
検査できる資格者
主に一級建築士・二級建築士、防火設備検査員となります。
ただし、感知器との連動や、防火シャッターのシャッターボックス内、さらにはドレンチャーといった特殊な設備検査も含まれるため、消防点検会社や専門のメンテナンス会社、メーカー技術者等と協力して検査を実施する必要が出てきます。
建築士は、報酬を得て業務として検査を請け負う場合、建築士資格の免状を持っているだけでは検査はできず、必ず都道府県の建築士事務所登録が必要になります。
その他
防火設備検査は、平成28年6月施行の法改正で新しく義務付けられた定期報告となります。各特定行政庁では2~3年の猶予期間を設けているところが多く、平成30年度までにはどこの行政でも最低1回以上の報告が必要となっています。すでに受付を開始している行政もありますので、必ず物件所在地の担当課へご確認下さい。
それから特定行政庁から通知が届いたとしても、例えば常時閉鎖式の防火扉しか設置されていない場合は対象外となる可能性もありますので、建築士等の資格者に図面や現地を確認してもらうことをおすすめします。
検査報告にかかる費用については、まだ始まったばかりということもあり、相当のばらつきがあることが予想されます。また、防火設備によっては、メーカーの技術者が必要になったり、規模が大きい建物の場合はそれなりの人数が必要になるため費用もかさむでしょう。消防法の消防点検と重なる部分もありますので、うまく消防点検の実施と調整して費用を抑えることも一つの方法です。ただし、安かろう悪かろうで簡易な検査で済ませて報告書を提出するようなことは避けるべきです。今回の法改正の趣旨は、実際に防火設備を作動させて機能するかを確認することにあります。火災事故等の万が一の際に非常に重要な設備です。所有者・管理者の責任が大きく問われる事になりますので、きちんとした対応が求められます。
[用語]
法的には、特定建築物は「調査」、建築設備及び防火設備は「検査」という言葉が使われています。また国や地方公共団体が所有・管理する建物は「点検」という言葉を使用し、民間の建物と使い分けがされています。
ただし、本記事で使用する「点検」とは、一般的な用語として「チェックする」という意味で使用しています。