訪日外国人が増加する中、2014年にAirbnb(エアビーアンドビー)が日本でもサービスを開始しました。シェアリングエコノミーの代表格といえるAirbnbは、宿泊スペースを貸したい「ホスト」と、宿泊スペースを借りたい「ゲスト」をつなぐインターネットサービスで、近年の民泊ブームの火付け役ともいえるサイトです。

そんな新しい潮流の中で、日本国内における旅館業法、建築基準法、消防法などの法規制との調整が大きな問題となっています。

これに関連して、建築基準法第12条の定期報告でも関係する部分が改正されています。
建築設備の定期検査をよくされている方なら、非常用照明の検査結果表の項目が平成29年度の報告書類から変わったことに気づいたかもしれません。

また本記事は、実際に民泊を運営している方、民泊を利用される方にも関連する内容となりますのでご参考下さい。

「照明器具の取付けの状況」項目が追加

建築設備定期検査の検査結果表(非常用の照明装置)を見ると、以下のように項目が追加されています。
非常照明-検査結果表

番号1(1)「非常用の照明器具」の欄に、「照明器具の取付けの状況」という項目が追加されています。

これは、2016年12月16日に改正された建設省告示第1830号の内容を受けてのことです。さらに、一般社団法人日本照明工業会の「非常用照明器具技術基準」が2017年2月14日に改正され、附属書7として「LED光源を用いた非常用の電池内蔵コンセント型照明器具に関する技術基準」が出されています。

建築設備の定期検査の際は、この設置基準に則って非常用照明器具が設置されているか、確認することとなります。

電源内蔵コンセント型照明器具とは

名称は「予備電源内蔵コンセント型照明器具」とも言い、後付けできる電池内蔵型非常用照明器具のことです。これは、国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業・・・いわゆる「特区民泊」の規制緩和の一環で、建築基準法上で義務付けられた非常用の照明装置の設置を、後付けで対応できないかと検討されてきたものです。

パナソニック-LED電池内蔵コンセント型照明器具

Panasonic-LED電池内蔵コンセント型照明器具(NNFB01000)

東芝-電源内蔵コンセント型照明器具

東芝ライテック-商品データベース(LEDEM13821MPN-K)より

民泊は、もともとホテル・旅館といった用途で建築されていない建物を宿泊施設として貸し出すため、必要な設備が設置されておらず、建築基準法上の不備が出てきます。
外国人観光客の急増により民泊需要が益々高まる中、旅館業法の特例で規制緩和し、個人の家や賃貸住宅を民泊用の宿泊施設として活用できるようになってきました。適法に民泊を運営できるように政府も後押ししてきた形となります。
その中でやはり火災などの災害時に、宿泊客が安全に避難できるように、非常用照明の設置が必要となります。

一般の人にも設置できる?

既存の一般家屋等を宿泊施設として利用するので、非常用照明はもともと設置されていません。それを後付で、電気工事士の資格のない一般の方でも設置できる器具という触れ込みです。しかし、設置の条件を詳細に見ていくと、なかなか難しい条件が含まれています。

  • 差し込みプラグが容易に抜けない措置をとること。(ガードプレートを付ける。)
  • 差し込みプラグはコンセントに直接接続すること。延長コードやコンセントタップの使用は禁止。
  • 取り付け位置は2.2m~2.8m
  • エアコンのコンセントとの共用禁止。エアコン専用回路からの分岐接続も禁止。
  • 電線の長さは1m以下。
  • 部屋の角に設置の場合は、部屋の広さ(長辺の長さ)が4.5m以下。

主に上記のような条件があります。

現在、東芝ライテック(株)とパナソニック(株)から、このタイプの非常用照明器具が発売されていますが、基本的な構造やデザイン、希望小売価格はほとんど同じです。

商品には、プラグが容易に抜けないようにする措置となる「カバープレート」が付属又は別売りで用意されていますので、これら必要なものを購入すれば、一般の方でもドライバー程度の道具で設置ができそうです。カバープレートには専用の鍵がついており、鍵を回さないとカバーが開かないようになっています。

しかし、よくよく上記の条件を考えると、天井からだいたい50cm程度のところまでにコンセントがなければ、そもそも設置することができません。エアコンのコンセントも使えませんし、延長コードも使えません。単独で余っている天井付近のコンセントがもともと設置されている家は稀でしょう。強いて言えば、冷蔵庫が置かれる付近にあるくらいでしょうか。

ただ、上記の条件は当然といえば当然です。非常用照明の設置について、法的には単独回路で、常に充電されている状態にしておかなければならないこととなっています。単独回路でなければ、他の電化製品の影響でブレーカーが落ちたりした場合に充電されなくなります。延長コードやタップを使用すれば、誤って電源を遮断する可能性が出てきます。

そのような理由から、後付できる非常用照明であっても上記の細かな設置条件が規定されていることがわかります。

天井付近にコンセントがないと一般の方が後付できないとなると、電気工事会社に依頼しなければならなくなります。電気工事士に作業を依頼してコンセントをつけるくらいでしたら、埋め込みタイプの非常用照明をちゃんと専用回路で送って設置するほうが良いような気もします。仕上がりもきれいです。

この後付タイプの非常用照明は、デザイン的にあまり良くありません。
宿泊施設として選んでもらうためには、内装や家具など部屋のデザインに力を入れるのは当然です。その時に、天井に何個かこのようなボコッと露出した器具がついているのはデザイン的にはマイナスに感じます。器具からコンセントまでのコードは、壁などに固定してはいけませんので、だらんと垂らした状態になります。

費用的にどれだけ差が出るか実際に見積もってみないとわかりませんが、内装のリニューアルと合わせて建築基準法、消防法の設備も設置する方向で工事をすすめる方がよいと感じます。あとから余分な手間や費用がかからないように最低限の配線などは通しておくほうが賢明でしょう。

このような器具が規制緩和の一環として出てくるのは評価すべきことで、選択肢が増えたことには間違いありません。今後さらに改良、また基準の見直し等がなされることに期待したいところです。

お客として不特定多数の人を受け入れるからには、火災等の万が一の際の避難上の安全は大きな問題です。気軽に家を宿泊施設として貸し出せる反面、災害時などには安全上の責任問題が同時に家主には生じます。また設備を設置していても、設置したあとの器具の点検や内蔵バッテリーの交換等、メンテンナンスも忘れずに実施しなければ、いざという時に役に立ちません。
利用者を増やすためにも内装をリニューアルしたりすると同時に、安全面でも必要な対策を行い、適切な運営を心がけたいところです。

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