建築基準法第12条で定められています「定期報告制度」には、主に3種類の報告内容があります。
2.建築設備
3.防火設備(平成28年6月施行の法改正で新設)
本記事は、1.の「特定建築物」について内容をご紹介いたします。
まず「特定建築物」という名称についてですが、平成28年6月以前は「特殊建築物」と呼ばれていました。特殊建築物とは、不特定多数の人が利用する建物を指し、建築基準法上では特殊建築物に該当する建物の用途が定められています。
それが平成28年6月から法改正によって、定期報告の対象となる建物は、これまでの特殊建築物用途に、国が政令で定める建築物が追加される形で拡大されました。これを機に定期報告の対象となる建築物の呼び方も「特定建築物」と変更になりました。
この「特定建築物」という言葉は、定期報告対象となる建築物を指して用いられる場合と、今回紹介します報告の「種類・分類」を指す場合があります。3種類ある報告の種類を指す場合は、単に「建築物」と言ったりもします。
特定建築物の定期調査とは
特定建築物の定期調査は、簡単に一言で言うなら「建物全体」の調査ということになります。全体の調査になるので、各行政では3年に1回の報告としているところが多いですが、2年に1回や、用途によっては毎年報告という行政もあります。
具体的な調査項目は、大きく以下のように分類されています。
2.建築物の外部
3.屋上及び屋根
4.建築物の内部
5.避難施設等
6.その他
調査内容は、建物が建っている敷地から、建物の外部・内部、避難に関わる内容などとなっており、調査項目としては130項目程度に及びます。
1.敷地及び地盤
この項目では、地盤の沈下や排水の状況から、通路幅員の確認、塀や擁壁の状況などを調査します。
2.建築物の外部
この項目では、建物の基礎部分から外壁の状況、サッシや窓に関する項目、外壁に設置された看板等の状況を調査します。
ここで重要な調査としましては、やはり外壁仕上材の落下につながる外壁の調査です。全国的に外壁タイル等の落下事故が相次いだため、現在では築10年を超えた建物は外壁の全面打診調査を実施しなければなりません。
参考ページ→「外壁全面打診調査とは」
クラック(ひび割れ)の発生状況や、タイル等の「浮き」の発生状況を、打診棒を使って調査していきます。
3.屋上及び屋根
この項目では、屋上や屋根周りの劣化・損傷状況を確認していきます。基本的に目視での調査ですが、建物の維持管理にはとても重要な項目となります。普段見に行かない場所だからこそ放置されがちで、漏水の原因の発見が遅れ、改修に大きな費用がかかることがあります。
主に防水層の劣化や破れ、屋根葺材の割れや欠損、排水溝やドレーンの詰まり、それから屋上設置の機器類の錆や損傷、看板支持鉄骨の錆・腐食などを見ます。
4.建築物の内部
この項目は非常に重要な要素を含む項目となっています。防火区画の形成状況について、壁や床、天井の劣化・損傷に関する項目、さらには防火扉や防火シャッターといった防火設備に関する項目もあります。また、石綿(アスベスト)についての項目もここに含まれています。
天井については、地震災害時等に吊り天井が落下する事故があり、近年新たに「特定天井」という項目が追加されました。それから防火設備につきましても、法改正で防火設備の定期検査が新たに独立する形で報告することとなったので、常閉防火扉のみがこの報告で調査対象となりました。
5.避難施設等
この項目も費用に重要な項目が並びます。文字通り災害時等の際に避難にかかわる項目ですので、しっかりと確認していかなければなりません。
主に避難通路の確保の状況や避難階段の状況についていくつもの項目があります。またこの5.には防煙区画や排煙設備の項目、非常用の照明器具についての項目も含まれています。自然排煙の排煙窓は実際に開けて作動状況を確認しなければなりませんし、非常用照明も点灯確認を実施しなければなりません。
6.その他
ここでは、特殊な構造の部材についてや、避雷針などの避雷設備、その他煙突の劣化・損傷状況の項目があります。
以上、様々な調査項目の概略をざっと見てきましたが、たくさんの項目があることをお分かり頂けたと思います。
報告書作成に必要なこと
報告書はもちろん現地調査の内容を落とし込んで作成するのですが、現地調査の他にも重要な要素があります。まず一番大事なのが建物の基本情報です。当初建築時の確認申請から変わっていないのか、増改築などがあって変わっているのかなどで作業量も変わります。
建築行政にとって面積はとても重要な数字です。敷地面積、建築面積、延べ面積、各階の面積、用途別の面積など、面積を基準に決められていることがたくさんあり、これを基準に判断がなされます。
事前準備として図面をしっかりと読み込んで、その建物の基本情報を頭に入れて置かなければなりません。その上で現地調査を実施しなければ、問題があるのかないのかが正しく判断できません。調査前及び報告書作成時に、図面をしっかりと見て判断しますが、ここで役所へ確認したり、法規を見直し、法的解釈に頭を悩ませたりと労力がかかることが多々あります。
その他「石綿」を添加した建築材料を使っているところがあるかという項目もあります。鉄骨造(S造)の建物を所有・管理されている方は注意が必要です。アスベストの健康被害が大きく取り上げられ、現在では耐火被覆として使用できませんが、まだまだ古い建物では残っています。
耐震診断や耐震改修の有無を記載する箇所もあります。昭和56年6月を境に旧耐震と新耐震に別れますが、確認申請を基準にしているので昭和56年6月より後に完成した建物であっても旧耐震の建物があります。
確認申請書や竣工図面などの建築資料がきっちりと残っていれば、それほど問題なく記載できる部分ですが、資料を紛失している場合や届出なしの増改築を繰り返している場合などは、それを一つ一つ精査しながら確認していく作業はとても大変です。役所で建築計画概要書などの集められる資料を集める必要もありますし、現地での測量が必要な時もあります。また、前回の定期報告の控えが残っている場合でも、その書類が100%正しいかどうかはわかりません。前回の調査者がどのような資料をもとに報告書を作成したか、またどの程度調べたかによるとことが大きいためです。また、前回からの間に法改正があったり、増改築が合ったり、行政の都市計画に変更があったりと、年々状況が変わってきます。
上記のような定期調査をきちんと実施しようとすると、やはりそれなりの時間と費用がかかります。また調査者個人の経験や知識などの力量も大きく関わります。誰に頼んでも同じ、安くても高くても同じというものではありません。そのあたりを考えて、ではどういったところに依頼するのが、所有者・管理者側の希望に沿うのかよく考える必要が出てきます。
このあたりはこちらのページをご参照下さい。→「気になる定期報告の費用と依頼先」
このような多岐にわたる調査を、費用をかけて建築士や専門資格者に依頼するわけですから、義務として役所へ報告すること以上に、建物の維持管理や資産価値を守る為に、積極的にご活用頂ければと思います。
調査できる資格者
主に一級建築士・二級建築士、特定建築物調査員となります。
建築士は、報酬を得て業務として調査を請け負う場合、建築士資格の免状を持っているだけでは調査はできず、必ず都道府県の建築士事務所登録が必要になります。
[用語]
法的には、特定建築物は「調査」、建築設備及び防火設備は「検査」という言葉が使われています。また国や地方公共団体が所有・管理する建物は「点検」という言葉を使用し、民間の建物と使い分けがされています。
ただし、本記事で使用する「点検」とは、一般的な用語として「チェックする」という意味で使用しています。